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セブンス・コンチネント

ミヒャエル・ハネケ監督のデビュー作「セブンス・コンチネント」を夜半からDVDで鑑賞。
どんよりとした絶望感が鑑賞後に漂う。

自分がハネケを知ったのはナオミ・ワッツが制作・主演で作られた
2008年の「ファニーゲームUSA」が最初である。
ハネケが97年に監督した「ファニーゲーム」を自身でほぼ同内容、同構成でリメイクしたこの作品の衝撃度、不快度は映画史に残るとも言われ、カンヌ映画祭でのオリジナル版上映の際は、観客、批評家が次々と席を立ったという事だ。(自分はオリジナルは未見>>11/09/13 オリジナル鑑賞しました。自分的にはオリジナル版のキャストのほうが好みかも。)

とある夏、休暇をすごす為に別荘に訪れた3人家族のもとに現れた白ずくめの若い男2人組。
「卵をかしていただけませんか?」と丁寧で大人しい態度をとる男たちだが、
まるでからかうかの如く、借りた卵を床へ落とすことを繰り返す。
奥さんのとある言葉に激高した男の一人が、側にあったゴルフクラブで夫の足を殴りつける。
物語は一気に装いを変え、狂気の「ファニーゲーム」がスタート。
2人組に家族は捕らわれてしまう。
家を占領した2人は一家にあることを提案する。
「明日の朝まで君たちが生きていられるか賭けをしないか?」と。

徹底的に描かれる理不尽な暴力。
残酷な描写はほぼ無いにも関わらず、その不快感たるや相当なもの。
真っ黒なジョークのような不条理な展開が、余計に背筋を凍らせる。
救いもなにもあったもんじゃない。
結局家族は皆救われず、2人組は裁かれることもなく唐突に物語は終わる。
まるで神の手による自然災害に人類がまるで無力であるように。

冷静に考え「これはハリウッドの暴力映画へのアンチテーゼなのでは…」、「暴力=アメリカ」を表しているのではないか、と自分の中で落とし所をつけたとしても、胸に残る嫌悪感は決して和らぐことは無い。
(事実スリラー映画のパロディともハネケ自身は語っている。)

とてもとても人に薦められる映画ではないが、
衝撃を与えるという意味ではこれに勝る映画はないかもしれない。




さて話は戻って「セブンス・コンチネント」。
デビュー作という事で、まだまだ荒げ刷りな映画と思って観たのだが、
すでにハネケの手法は完成されていた。

物語はオーストリアに住む平凡な家族(夫、妻、少女)の、死へと向かう3年間を淡々と描いたもの。
(新聞に載った実際の心中事件を読んだ監督が、独自に解釈をし作られたものらしい)
叙情性など皆目無視された冷徹な演出。繰り返される同じ日常の風景。
死を覚悟した夫が、今まで培った部屋の中を破壊する後半部分ですら冷め切った視点で映し出されていく。
最後に残るのはテレビモニターのサンドストームのみ。

「セブンス・コンチネント」とは「第七大陸」の意味で、地上には存在しない大陸のこと。
「ここ」では無い「前向き」な世界への旅立ちとして家族は「第七大陸(死)」を選んだという意味なのだろう。
僕は最後の延々と映し出されるモニターの砂嵐をみて
「死んだらそこまでだ。夢の第七大陸などないのだ。」というメッセージを感じたが、
ハネケの本意はどうなのだろうか。
ともあれ「ファニーゲーム」ほどの後味の悪さは無いにしても、
胸の奥に鉛を詰め込まれたようなどんよりとした気分になるのは必至だ。

ハネケはこう語っている。
「映画は気晴らしのための娯楽だと定義するつもりなら、
私の映画は無意味です。私の映画は気晴らしも娯楽も与えませんから。
もし娯楽映画として観るなら後味の悪さを残すだけです。
快適で親しみやすいものなど、現代の芸術には存在しません。
にもかかわらず、映画にだけは気晴らし以外の何も求めないことに慣れてしまっているのです。
だからこそ、気晴らしのできない映画を観ると苛立つのです。

私の映画を嫌う人々は、なぜ嫌うのか自問しなければなりません。
嫌うのは、痛いところを衝かれているからではないでしょうか。
痛いところを衝かれたくない、面と向き合いたくないというのが理由ではないでしょうか。
面と向き合いたくないものと向き合わされるのはいいことだと私は思います。
結局のところ、いかに奈落に突き落とすような恐ろしい物語を作ってみても、
我々に襲いかかる現実の恐怖そのものに比べたら、お笑い草にすぎないでしょう。」
第23回 ぴあフィルムフェスティバル 「知らせざる世界の巨匠 ミヒャエル・ハネケ」
インタビュー:スザンネ・シェアマン(映画研究家・明治大学助教授)
ドイツ語翻訳:須永恒雄(独?文化研究・明治大学教授)より転載
http://www.tv-tokyo.co.jp/telecine/cinema/pianist/staff.htmlより引用


観終わった後、たまらなく嫌な気分になるのに何故かハネケの作品には惹きつけられる。
観ていない作品がまだ多々あるので興味があるが、観るのが怖くもある。うーん。
(まぁ観るだろうけど…)

本当に嫌な気分になるので見ようと思った方は要注意を。
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by joenakamura | 2010-07-16 18:14 | 映画 | Comments(0)